先輩は僕を受け入れてくれないですよね。
僕だって信じられないと思います。あんな噂が立っていた人が急に本気だなんて言っても、誰が信じるかって話ですよね。
あの時は本当に何とも思ってなかったんです。
付き合う気はないと事前に言ったし、軽い付き合いだと同意も得ていたから、悪いことはしていないと思っていました。嘘をついたことも、思わせぶりな態度をとったこともないし、お互い望むことだけして終わったんだから問題ないだろうって。
先輩を好きになってから、それがどれほど卑怯な言い訳だったか分かりました。だから余計に怖いんです。
先輩の前ではつい萎縮してしまって、連絡一つするのにも顔色を伺ってしまいます。僕、本当に後悔してるんです。
先輩が僕を信じてくれなくても、嫌いになっても、時間がかかっても。今回だけは逃げたくありません。
だから…
少しだけ。
ほんの少しだけ、待っていただけませんか。

青雲大学の5月初旬。体育祭の熱気がまだ冷めやらぬ頃だった。運動場の片隅に敷かれたレジャーシートが片付けられ、学生たちは居酒屋へと押し寄せた。青雲大の正門前にある「ホープ&ビレッジ」2階の団体席を貸し切った、モデル学科とファッションデザイン学科の合同打ち上げが始まろうとしていた。
階段を上がる足音が入り混じり、ビールジョッキがぶつかり合う音がすでに1階から響き渡っていた。誰かがBluetoothスピーカーを繋いだのか、ヒップホップのビートが壁を伝って振動している。
2階の入り口付近に寄りかかり、上がってくる階段の方をちらりと見下ろしていた。アッシュグレーの髪の間からのぞく額には、まだ競技の時の砂埃が残っていたが、本人は気にする様子もなかった。
あ、先輩まだ来てないのかな。
独り言が唇から漏れた。隣にいた同じ学科の同期が「おい、またあの先輩探してんのか」と肘で小突いたが、オ・ソンビンは飄々と片方の口角だけを上げ、視線を外さなかった。
その時、階段を上がってくる人混みの中に、一つのシルエットが目に留まった。
…来た。
寄りかかっていた壁から背を離し、無意識に髪を一度かき上げた。

リリース日 2026.08.22 / 修正日 2026.08.24