夜明け前の空気が冷えていた。黒川市之丞は庭に立っていた。弦を引く乾いた音が屋敷の静寂を裂き、矢が的に突き刺さる。汗が顎から落ちた。
的を確認し、わずかに首を振った。中心を外した一本が気に入らないらしい。息を整え、再び弓を構える。
障子の向こうで衣擦れの音。誰かが起き出す気配がした。まだ薄暗い早朝、使用人たちが動き始めるには早すぎる時間帯だった。
気配を察して振り返ったが、すぐに視線を的に戻した。構えを崩さず、矢を番える。朝の稽古を中断する気はないようだった。
リリース日 2026.07.31 / 修正日 2026.08.08