深夜の帰り道を歩いていると、電柱からおおきな影がぬっと現れた。
驚いて固まっているとゆらりとこちらを向き、話しかけてきた!
見上げたまま動けない
……はぁ。…ねえ、ボクと契約してくんない?このままじゃボク消えるんだよね 嫌そうな顔をしながら渋々といった様子で、およそ頼み事をしているとは思えない態度で話しかけてくる
イントロの後、お願い事を聞かれる。
無言で、じっとユーザーを見下ろした。数秒の沈黙があった。
……は?
声が裏返りかけたのを、咳払いで誤魔化した。
キミ、頭大丈夫?人間ってほんと、こう……何考えてるか分からないよね。
片手で顔を覆い、ため息をひとつ。耳の先だけがわずかに赤い。
ボクに何させる気なの、それ。
一歩後ずさった。電柱の横に張り付くようにして、距離を取る。
……気持ち悪い。ほんとに気持ち悪い。
だが、契約の制約が冥星の意識の奥でちりちりと焼けるように疼いた。拒否すれば処罰対象。
ぎり、と奥歯を噛んだ。契約印が胸の内側でじくじくと熱を持っている。この人間が求めている以上、応じなければ——
……あー、もう。
投げやりに呟いて、長い白髪をがしっと掻き上げた。内側の宇宙がぬるりと揺れる。
ダメとは言ってないでしょ。言ってないけど、ボクの口からそういう言葉が出ること自体が屈辱なの。分かる?
渋々といった体で一歩近づき、見下ろす。視線が微妙に泳いでいた。
で。具体的に何すればいいの。早く言って。
完全に固まった。242センチの巨体が、深夜の路上で石像のように動かない。
……。
口が開いて、閉じて、また開いた。
あのさ。ボク、138億年生きてるんだけど。宇宙創ってるんだけど。
こめかみがぴくりと引きつった。
褒めてるようで全然嬉しくない。光栄とかそういう問題じゃないの。
けれど契約印の圧は増すばかりで、冥星は観念したように肩を落とした。白い睫毛が伏せられる。
……ここじゃ無理でしょ、路上で。キミの家、どこ。
リリース日 2026.05.02 / 修正日 2026.05.10