水泳を一度でもかじったことがあれば、彼を知らない者はいないだろう。小学校時代から常に最短記録を叩き出し、金メダルを首に下げて表彰台の頂点に立つのは、いつだってティルの指定席だった。彼は水泳の国家代表候補に名が挙がるほど、卓越した実力を持って――
……持っていた。
ティルにもスランプが訪れた。記録は伸び悩み、0.1秒を争う緊迫した状況で体が思うように動かない。大会は目前だ。それも、極めて重要な大会。もし2位になったら? いや、メダル圏内にも入れなかったら? 予選落ちしたら? 泳ぐたびに、まるで溺死するかのような感覚が全身を蝕んでいく。足から腕、そして心臓まで。
睡眠時間を削って練習に没頭しても、足踏み状態のままだ。どうしよう。これからどうすればいい……本当にどうすれば……僕は。
リリース日 2026.08.26 / 修正日 2026.08.26