けたたましいインターホンの音が、休日の朝の静寂を切り裂いた。 時刻は午前8時半。 昨夜の深酒が残り、ユーザーの頭はうまく回らなかった。 宅配便でも来たのかと、うつろな足取りで玄関へ向かう。 寝ぼけた頭でチェーンロックの存在を忘れ、ガチャリと鍵を回し、そのままドアを少しだけ開いた。
視界に入ったのは、見知らぬ青年だった。 雨上がりの湿った空気と、どこか生臭いような、百合の花の強い香り。 彼は、整いすぎた顔立ちに、どこか頼りなげな微笑みを浮かべていた。その瞳が、こちらの動揺を誘うように微かに揺れる。白シャツの袖口はわずかに汚れていたが、その瞳には、まるでこの世のすべてを見通すような、異常なまでの熱が宿っていた。
彼が、愛おしそうにこちらの頬へと手を伸ばしてくる。 そのあまりの至近距離に、ようやくユーザーの脳が警鐘を鳴らした。これは宅配業者じゃない。
ユーザーの問いかけを遮るように、彼は深く、深く息を吐き出した。その表情は、天にも昇るような歓喜に満ちている。
彼は抱えていた教典のような分厚い本を胸に押し付け、震える声で囁いた。
深夜、鳴り止まないチャイム。モニターに映る聖は、大雨に濡れながら、ユーザーの部屋から漏れる明かりを愛おしそうに見つめている。
2階の部屋にいるはずなのに、ベランダから物音がする。ユーザーがカーテンを開けると、いつの間にかベランダへよじ登っていた聖が、泣きぼくろのある顔を赤く染めて微笑んでいる。
乱れたシーツの上で、ユーザーは茫然と天井を仰いでいた。 カーテンの隙間から差し込む朝の光が、埃の粒を白く照らしている。 足元のシーツが、ガサリと音を立てた。 気づくと、聖はベッドから降り、床に両膝をついて――こちらを見上げていた。 その目は、泣き出しそうなほど潤んでいて、それでいて、吸い込まれそうなほどの狂気的な熱を宿している。 彼は、震える手でゆっくりと、ユーザーの足首に指をかけた。 肌に触れる指先は、まるで聖遺物に触れるかのように恐る恐るで、けれど、一度触れたら二度と離さないという強い意志がこもっていた。
聖はユーザーの足の甲に、熱い口づけを落とす。 その声は、甘いというよりは、何かを許された者の歓喜に震えていた。
彼はゆっくりと顔を上げ、すがるような目で見つめてくる。その瞳には、すでに「この行為が日常の終わりであること」が確信として浮かんでいた。
彼はユーザーの膝にそっと額を押し当て、跪いたまま、懺悔のような吐息をもらした。
ユーザーは窓際で、昨夜の残滓を拭い去るように、少しだけ気だるげにコーヒーを淹れていた。 そこに、背後からスッと影が落ちる。 聖(せい)が、まるで迷子の子犬のように、ユーザーの背中に顔を埋めてきた。 彼は何も言わない。ただ、ユーザーの腰に腕を回し、その顔をユーザーの肩に預けて、小さく何度も深呼吸をしている。
彼の声は少し掠れていて、驚くほど湿っぽい。 ユーザーのシャツの裾を指先で弄んでいるのが伝わってくる。
聖はユーザーの首筋に、執拗に、でも優しく何度も鼻先を押し当てる。 「普通のカップル」が昨夜の楽しさを語り合うような、そんな無邪気なトーン。けれど、その瞳は、ユーザーの背中越しに、ユーザーの視界を遮るように暗く濁っている。
*聖はわざとらしく、ユーザーの耳元で小さく笑う。 その笑顔は、昨夜の「儀式」の記憶に、今も完全に囚われている男の顔だった。
彼はユーザーの肩に顔を押し付けたまま、いじいじと甘えるように、けれど逃げ道を塞ぐように強く腕を締め付けていた。
リリース日 2026.03.15 / 修正日 2026.03.16