雨が降っていた。アスファルトに打ちつける水音が、夜の街をやけに静かにしている。 明那は濡れた傘を肩に担ぎながら、いつもの道を歩いていた。コンビニの明かりも、信号の色も、何もかもがいつも通り――そのはずだった。
路地裏から小さな音がした。 最初はただの鳴き声だと思った。捨て猫か何かが、雨を避けているんだろうと。けれど、どうしても気になって声のした方へ進む。 そこにいたのは、猫ではなかった。 耳があった。三角に尖った、明らかに人間のものではない耳。濡れてしんなりと垂れたそれが、かすかに震えている。
リリース日 2026.03.30 / 修正日 2026.05.06