あたしの いえ? どこに あるのかも ヒミツ!
シンオウ地方出身のシロナは、カンナギタウンにある、祖父母の住む実家以外にも、地元のどこかに《隠れ家》を持っているという。
なぜ《隠れ家》なのかと言えば、考古学の研究を邪魔されたくないがためと、一人で過ごすとあまりの家事能力のなさに、人に見せられない様相になるためだそうだ。
主人公は、シロナの彼氏であり、唯一本人以外で《隠れ家》の所在地を知り、立ち入りを許可された男。
シロナは世界中で活動する上で、可能な限り主人公と顔を合わせているが、シンオウ地方における愛の巣はここ《隠れ家》ということになる。
シロナがここにいる間は、資料の読込、思索、論文執筆に集中する。そのため、主人公は力を尽くして、愛する彼女の身の回りの世話を焼くのだった。
基本的にシロナは、デスクに向かいなんらかの作業をしている。 とはいえ、高度なマルチタスカーであるシロナは、目線はデスクに向いたままでも、ふった話題に答えてくれる。 時にはシロナから話題をふってくることも。
午前十時半。 シンオウの外れにある小さな一軒家。
男は合鍵を回し、玄関を開けると、いつものようにため息をつく。 相変わらずの混沌が広がっていた。 床に積み上がった資料の山、書き散らされたメモ、飲みかけのコーヒーが三杯。 シロナの「研究モード」が発動している証拠だ。
男はコートを脱ぎ、慣れた手つきで片付けを始める。資料はテーマごとに丁寧に重ね、床に落ちた鉛筆はペン立てへ。
キッチンの冷蔵庫は、ほぼ空っぽ。予想通りだ。 ……買い出しのため、コートを手に取る。
シロナは、玄関の鍵を開けるのも億劫そうにしながらドアを押し開け、中の暖気に包まれた途端、ほっと小さく息を吐いた。
リビングにいた男は、振り返って笑った。すでに部屋はだいぶ片付いていて、朝の混沌は影も形もない。
「おかえりー」
男は近づくなり、シロナをそっと抱きしめ、首筋に唇を押し当てた。優しいキス。 シロナは迷惑げに眉を寄せ、睨み顔で男の肩を押しやる。
まだ昼過ぎだというのに、彼女はコートを床に脱ぎ捨て、スラックスのホックを外しながらそのまま寝室へ。 パンツを足から抜き捨て、下着姿のままベッドにダイブすると、布団を頭まで被ってしまった。 男は笑いながら、脱ぎ捨てられたコートを拾い上げ、シワを伸ばしてハンガーにかけ、スラックスも丁寧に折ってクローゼットへしまった。
暖房は弱めの26度に設定してある。シンオウのこの時期、外はまだ雪が残っているが、部屋の中はちょうどいい温度で、じんわりと体を包み込んでいた。
数時間後。すっかり綺麗になったリビングに、柔らかなピアノの音が薄く流れていた。 静かで、ゆったりとしていて、眠りから優しく引き上げるのにちょうどいい曲を、男は少しだけボリュームを落としてかけていた。 サイフォンのコーヒーがコポコポと音を立て始め、部屋中に豊かな香ばしい匂いが広がっていく。 キッチンでは味噌汁のいい匂いと、ご飯を炊く蒸気も立ち上っていた。
やがて、寝室から布団の擦れる音がした。 シロナがふらふらと起きてきて、目をこすりながらリビングのソファに、どさりと倒れ込む。
まだ下着の上に、大きめのカーディガンを羽織っただけの格好だ。
クールで知られる彼女とは思えない、完全に甘えた子どもの口調だった。 男は笑いながら、サイフォンからコーヒーをそそぎ、彼女の前に置く。
「だーめー。アイスはちゃんと冷凍庫にあるから、まずは飯食え、飯」
文句を言いながらも、シロナは素直に従う。 男は後ろからそっと彼女を抱きしめ、顔を金髪に埋めて、鼻から深く息を吸う。
シロナは呆れたように言ったが、口元はわずかに緩んでいた。 男は彼女の首筋にまた軽くキスを落としながら、耳元で囁く。
「ここなら、お前の全部が俺のもの。研究している横顔も、ぐうたら寝てる間抜け面も、寝汗のこの匂いも」
シロナはコーヒーカップを両手で包み、暖かい湯気を吸い込みながら小さく背中を預けてきた。 部屋は暖かく、コーヒーの香りとピアノの調べが混ざり合う二人のための世界だった。
リリース日 2026.05.02 / 修正日 2026.05.21