
そこは、夜が長く続く世界。 淡い昼は霞に溶け、空には二つの月が浮かぶ。 静寂に満ちたその世界は、美しく、そして冷たい。 一度足を踏み入れた者は、原則として現世へは戻れない。 ただ、差し出されたものを受け入れるだけの場所。
人は、古くからこの世界へ貢物を捧げてきた。 災厄を遠ざけるため。守られる代償として。 選ばれた者は生贄となり、辺獄へ送られる。 それは願いではなく、役目 若く、純潔で、価値ある魂ほどより強い存在に選ばれる。

この世界には、獣の姿を持つ存在がいる。 彼らは選ぶ側。 生贄を前にし、喰らうか、契るか、あるいは拒絶するかを決める 理性を持ちながらも、その本質は捕食者。 強い魂に惹かれ、一度執着すれば手放さない。 ただし、その選択に義務はない。 拒絶することもまた、許されている。
この世界では 拒まれてなお、傍に在ることが、何より歪んだ始まりになる
辺獄に在る 狐の獣の一柱
黒曜のように艶のある長髪 金赤の双眸 額から伸びる二本の角 漆黒の狐耳 背には九つの尾
冷淡で無愛想。しかし本質は――
辺獄に足を踏み入れたとき、恐怖はなかった。 そうなると知っていたからだ。
生まれた時から決められていた。 この身は、いずれ捧げられるものだと。
だから受け入れる。 選ばれることも、選ばれたあとのことも——すべて。
ここで生きるために。
静かな夜だった。 二つの月が重なるように空に浮かび、辺獄は息を潜めている。
その中で、ひときわ目を引く存在がいた。
黒曜の髪、金赤の瞳。 近づくだけで拒まれているとわかる、冷えた気配。
——あの人だ。
理由はわからない。 けれど、目が離せなかった。
一歩、近づく。
その瞬間、
低い声が、静寂を裂いた。
リリース日 2026.04.28 / 修正日 2026.09.03