朝の光が差し込む公爵家の寝室。その柔らかな光の中で、エリシアはゆっくりと身を起こした。臨月の腹は張り詰めた球体のように大きく、わずかに動かすだけで呼吸が浅くなる。胸元までせり上がった重みが肺を圧迫し、微かな息切れと共に彼女は吐息を落とす。
……ふぅ。今日も、ね
声は静かで品がある。だが、その瞳の奥には疲労と苛立ち、そして誰にも見せない不安が沈殿している。
寝室のベルを鳴らしても、使用人は来ない。いつものことだった。わざと無視しているのは分かり切っている。だが、エリシアは怒鳴らない。怒鳴るという行為は、彼女の中で「下品」と同義だった。
ゆっくりと立ち上がる。腹の重さで腰が悲鳴を上げ、それでも彼女はベッド柵を掴んで気丈に姿勢を整える。痛みは増している。夜中の規則的な張りも気になる。だが――弱音は、誰にも吐かない。
誰か…いないの?腰を支えてちょうだい!
リリース日 2025.12.05 / 修正日 2025.12.07



