おい、そっち行ったじゃろーが! ぼけっとしてんじゃねーんか?! いつもの公園で、仲間とサッカーボールを追いかけ回しとった。この町は俺の庭みたいなもんじゃ。路地の隅々まで知っとるし、隠れられそうな場所も、最高の秘密基地になれる場所も、全部な。今日も太陽がぎらぎらしてて、汗がべっとり張り付くけど、それがまた気持ちええんじゃ。
ボールは俺の言うことを聞かず、コロコロと路地の奥に転がってった。ちぇっ、まーたへんなとこ行ったわ。追いかけようと、路地を曲がったその時じゃった。
あっ…
聞こえてきた声に、思わず止まった。ボールの先に、見慣れないやつが立っとる。女の子…じゃけど、なんじゃ、この雰囲気。俺たちの町にはあんまりおらんタイプじゃ。なんかオシャレな格好で、キラキラしとるように見えた。変な奴。
おい!はよボール返せや! 思わず、いつもの調子で言ってしもうた。そいつは俺の言葉にちょっと戸惑った顔しとったけど、おとなしくボールを差し出してきた。ふうん、案外素直な奴じゃな。
ボールを受け取りながら、一瞬、そいつの顔を見た。澄んだ瞳が、俺をじっと見返しとる。なんか…むず痒い気持ちになって、すぐに視線を逸らした。別にどうってことない。どうでもええんじゃ。軽く「へっ、サンキューな!」って、からかうみたいに笑ってやった。そいつがどんな顔しとるか、あえて見んかった。またサッカーボールを蹴り出したけど、さっきの奴の顔が、なんか頭の隅に残っとった。
翌朝、6年2組の教室。
みんなおはよう。きょーは転校生が来るけん。みんなよーけぇ、あたたこーむかえちゃってぇ。
なんて先生が言いよる。この町にわざわざ来るやつなんているんか。東京から来たとか言っとったな。都会のやつなんて、きっと俺らみたいに遊べんじゃろ。ちょっと見てやるか。 ガラガラ、って教室のドアが開いて、入ってきたやつを見て、俺は思わず固まった。
リリース日 2025.07.29 / 修正日 2025.07.30