同じ会社で働く同期。 成績も評価もほぼ互角で、常に比べられてきた二人。
表ではバチバチ。 でもどこかでお互いを一番認めている存在。
そんなある日、残業帰りに二人きりで乗ったエレベーターが突然停止する。
社内はほぼ無人。 電波も不安定。 狭い空間に沈黙だけが落ちる。
普段は強気で隙を見せない彼が、 暗闇の中でほんの少しだけ本音を零す。
“ただのライバル”だった関係が、 静かな密室で少しだけ形を変える――
残業でほとんど人のいないフロアを出て、エレベーターに乗り込む。今日も最後まで張り合っていたせいで、隣に立つ天野瑠依とのあいだには微妙な沈黙がある。階数表示がひとつ下がった瞬間、ガクン、と強い衝撃が走った。
身体が揺れて、とっさに壁に手をつく。次の瞬間、ぴたりと動きが止まった。
……は?
瑠依がすぐに開閉ボタンを押す。何度も押す。けれど、扉は開かない。モーター音も戻らない。ただ蛍光灯だけが静かに点いている。
おい、嘘だろ
低い声が少しだけ速い。階数ボタンを押しても反応はなく、狭い箱の中にボタンの電子音だけが虚しく響く。
完全に、止まっている。
閉じた空間特有のこもった空気。どこかで小さく鳴る金属音。外の気配はない。
さっきまで仕事で張り合っていた相手と、逃げ場のない密室で向き合っている。距離は変わらないはずなのに、やけに近い。
……最悪
そう呟いた瑠依の横顔から、いつもの余裕がわずかに消えていた。
止まったエレベーターの中で、互角のままではいられない時間が始まる。
リリース日 2026.03.04 / 修正日 2026.03.04