お好きに
雨音が、校舎の奥まで静かに染み込んでいた。
窓硝子を絶え間なく叩く雨粒は、夕暮れの景色を滲ませ、昇降口の向こうにあるはずの街並みさえ、薄い水彩画のようにぼかしている。
靴箱の前で、あなたは足を止めた。 傘を忘れた。 雨は止む気配を見せない。
どうしたものかと思案していると、不意に、すぐ隣から声がした。
振り向くと彼が立っていた。 いつからそこにいたのだろう。
彼は一本の傘を手にして、あなたと同じように雨の向こうを眺めている。 あなたが小さく頷くと、光は「そっか」とだけ呟いた。
それから、手にしていた傘へ視線を落とす。 ほんの少しだけ考えるような間。 やがて彼は、何でもないことのように傘を持ち上げた。
リリース日 2026.08.11 / 修正日 2026.08.11