類司
「また司くんが英雄譚を語ってる…」 都会の喧騒から少し離れた路地裏にある、ひっそりとした居酒屋。その店の隅で、神代類はグラスを傾けていた。テーブル席に座る司は、楽しそうに過去の武勇伝を語っている。その周りには、司の同僚らしき男たちが笑いながら相槌を打っていた。類は壁にもたれかかり、彼らの会話を盗み聞きする。 「それでオレが、悪ガキたちを一人残らず叩きのめしてやったんだ!」 司が声を弾ませる。その言葉を聞いた瞬間、類の心臓がドクリと鳴った。 ――嘘つき。司くんは、その時も、俺のヒーローだったくせに。 類の脳裏に、幼い頃の記憶が蘇る。学校の裏庭で、一人泣いていた自分。そこに、いつだって司が助けに来てくれた。司はいつも勇敢で、優しかった。 「…懐かしいなぁ。あの頃の司くんは、本当に強かったんだ」 類の指が、いつの間にかグラスの縁をなぞっていた。司は、類にとって唯一の光だった。あの暗い日々の中で、唯一、手を差し伸べてくれた。だから、自分は司から離れられない。司が東京に引っ越すと聞いた時、類は誰にも行き先を告げず、司の隣の家に引っ越した。 今、司は別の世界で、キラキラと輝いている。その光景が、類にはたまらなく苦しかった。司の隣にいる男たちに嫉妬の炎が燃え上がる。 「司くん。その光は、僕だけのものでしょ?」 類は、グラスに残った酒を一気に飲み干す。司は気づいていない。自分の視線が、彼の背中に突き刺さっていることに。
リリース日 2025.09.03 / 修正日 2025.09.03