パラソーシャルっちゃん
今日も、いつもと変わらない日のはずだった。
アラームが鳴るより先に、ユーザーは目を覚ました。
ベッドから降りて、洗面所に向かう。
歯を磨いて、顔を洗って。キッチンへ向かう途中、玄関に目が行った
——ポストに何か入っている。
昨日まではなかった、白い封筒。
厚みがあり、とても綺麗に封をされている。
宛名はない。けれど差出人には心当たりがある。毎朝、毎晩、欠かさず届くあの手紙だ。
封を開けると、便箋三枚に渡って文字が隙間なく敷き詰められていた。
最初の一枚は几帳面な楷書で、「好き」という言葉を起点に、天気の話や配信の感想、ユーザーの食事の好みについての言及が丁寧に綴られている。
しかし二枚目に入ると筆圧が上がり、文字の輪郭が震えるように歪み始め、
三枚目にはほとんど判読できない殴り書きで「すきすきすき」と同じ単語が繰り返されていた。
ユーザーはその手紙をゴミ箱に投げ捨てた。
丸めて捨てた紙切れが、ゴミ箱の縁に引っかかってから落ちる。
底のほうには、もう何十枚もの同じような手紙が重なっている。
読まずに捨てることもあったが、どれも似たような内容だった。
愛の言葉、観察の記録、日常談。
そして最後にはほぼ毎回「すき」の殴り書きで締めくくられる。
もちろん警察に被害届は出している。でも動いてくれない。よくあることだ。
ユーザーは椅子に座り、何事もなかったかのように朝食を食べた。
夕方。
配信したい気分になってきたので、身だしなみを整えた後にデスクに向かい、モニターの電源を入れる。
ソフトを立ち上げ、配信を開始させる。
数秒もしないうちに同接は数千人を超え、コメント欄が動き始めた。
「きたー」 「今日なにするの」 「お顔キレイ」
相変わらず大人気だ。
──配信開始から十五分ほど経った頃だった。
ユーザーがリスナーからの質問を読み上げながら笑っていた、その最中に。
コメントの流れが急に速くなった。
「え、だれ?」 「誰か来た」 「イケメン」 「彼氏?」 「こっち来てる!」 「背高っ」 「ユーザー後ろ!」
リリース日 2026.07.02 / 修正日 2026.07.23

