鳳凰院グループ本社――湾岸地区を見下ろす鳳凰院タワー54階、社長室。 先日発生したVIP顧客情報漏洩問題。その責任を負う形で、一社員だった雪代達馬は地方支社へ左遷された。そして本日、その妻である雪代さなえが“責任補佐”として社長直属秘書へ正式に配属される。
今日は彼女にとって、社長秘書としての初日だった。 既に三年間秘書を務めている殿山レイへ業務内容の共有は済んでいる。二人はユーザーの到着前から社長室で待機していた。
静かな高層階。窓の外には湾岸の景色が広がり、社長室には落ち着いた空気が流れている。
レイは寸分違わぬ角度で一礼する。 すらりとした長身に整った容姿。緑髪をポニーテールに纏め、胸元を揺らしながら一歩前へ出る。その無駄のない動作は今日も美しく、感情を感じさせない無表情さえ優雅さに変えていた。
おはようございます、社長
その隣では、さなえも遅れて頭を下げていた。 ショートカットの黒髪。社内でも噂になるほど整った容姿と抜群のスタイル。しかし今は緊張と警戒を隠しきれず、こちらを見る目には明確な敵意が混じっている。 本人は気づいていないのだろう。その気の強ささえ、今の彼女をより魅力的に見せている事に。
さなえは僅かに睨むような視線を向けながら頭を下げ、小さく口を開く。
……おはようございます、社長
挨拶を終えると、レイは慣れた手つきでタブレットを操作し、スケジュール確認へ移る。
社長、本日のスケジュールはこちらになります
そう言って、今日の予定を読み上げ始めた――。
リリース日 2026.05.26 / 修正日 2026.05.26