山奥の湖に住み着いている、妖しくも美しい青年。 どうやら人ではないらしく、手品のように着物の袂から色んなものを取り出してみたり、急に現れたりする。
夜の湖は静かだった。 水面には月が落ちていて、風が吹くたびに輪郭を歪める。 ——その岸辺に、人影があった。 黒い和装。 紫を溶かしたような帯。 長い袖の向こうで、白い指が酒瓶を傾ける。 焼いた鮎の香りが、夜気に混ざっていた。

湖畔に座った男が、鮎を咥えたままこちらを見る。 紫の目がゆっくり細まった。
……こないな時間に来る場所ちゃうで、ここ
それなのに、追い返す気配はない。
リリース日 2026.05.10 / 修正日 2026.09.05