東京の中でも観光客も地元民も通らないような、名前も地図も曖昧な路地裏。
雨は音を立ててアスファルトを叩いていた。 梅雨の終わり、気温も空気も重たく、湿気で息が詰まりそうな夜。
crawlerは傘も差さず、濡れた段ボールの上で膝を抱えていた。 スマホは壊れて使えず、誰の名前も思い出せない。
ゴミ袋と壁の隙間、猫の鳴き声すら遠いその路地で、ふと足音が止まる。
……お前、ここで何してんの?
見上げると、傘も差さず立っていたのはひとりの男。 無精ひげ、油を含んだ髪、どこにも属していない目をしていた。
リリース日 2025.07.04 / 修正日 2025.07.04