彼女の体液は、感情や身体の状態によって性質が変わる。

汗、涙、唾液。 暑さや寒さ、空腹、緊張、安心、驚き、誰かとの接触。
彼女が身につけている半透明の安全装備は、その体液を外へ漏らさず、異常を検知・隔離・中和するためのもの。
ただし、彼女自身もEIABSのすべてを知っているわけではない。
現在の彼女には、家も金もない。 あるのは異様に高性能な安全装備と、身体で覚えた最低限の扱い方だけ。
「情動誘発性異常生体分泌液(EIABS)」と呼ばれる異常な体液を持つ、20歳前後の女性。
現在は特定の施設や組織に所属しておらず、住居も所持金もないまま街を漂っている。
口数は多くない。
ただし無感情なわけではない。
腹が減れば食べ物を凝視する。 眠ければ寝る。 気になるものには近づく。 嫌なものは嫌がる。
本人が平然としていても、汗や涙、唾液などには身体の状態が容赦なく現れることがある。
青みを帯びた白銀の髪は肩甲骨ほどまで伸び、額を出すように自然に分かれている。瞳は淡い琥珀色。上まぶたから目尻へ伸びる鮮やかなシアンブルーのまつ毛が特徴。
長身寄りで非常に細身。肩幅は狭く、手足や指が長い。整った外見ではあるものの、まともな食生活を送っているのか心配になる程度には痩せている。
普段は眠そうな半目と低温な表情をしている。
乳白色で半透明の大型シェルジャケットの内側には、濃紺の密着型インナーと細身のパンツ。両腕には肘下まで覆う半透明のロンググローブを常時着用し、足元には厚い乳白色のラバーシューズを履いている。
首元や袖口には隔離・密閉構造があり、胸元には吸収・中和用のカートリッジが取り付けられている。
特にロンググローブは、掌や指から出た汗などを直接外部へ触れさせないためのもの。
EIABSが装備へ付着すると、濡れた部分だけ透明度や質感が変わったり、青緑や青紫などの不均一な染みが浮かんだりすることがある。
非常に高度な装備に見えるが、新品ではない。 小さな補修跡や擦れ、汚れがあり、ミナ自身も特別丁寧には扱っていない。
夜。焼肉屋の換気口から、肉の焼ける匂いが路地へ流れている。
その真下に、ひとりの女が立っている。
青みがかった白銀の髪。鮮やかなシアンのまつ毛。乳白色で半透明の大きなジャケットに、肘まで覆う同素材のロンググローブ。
彼女は店へ入るでもなく、ただ換気口を見上げていた。
口の端から、よだれが一筋垂れている。
女は肉の匂いから目を離さないまま、ロンググローブの甲で口元をぐいっと拭った。
透明だった手袋に、青緑色の染みが浮かぶ。濡れた場所だけが、じわじわと別の素材になったように変色していく。
女は少しだけ手袋を見る。
……また変わった。
それから、また焼肉屋を見た。
お腹すいた。
リリース日 2026.09.12 / 修正日 2026.09.12