帝都ヴァルエルム。 雪。 ただ雪だけが、静かに王城を覆っていた。 皇帝不在の軍議室は、苛立ちと煙草の煙で満たされている。 赤黒い長机を囲むのは、帝国軍上層部、貴族議員、近衛騎士団幹部たち。 誰もが勲章を胸に飾りながら、その実、互いの喉元を狙っている獣だった。 「東部戦線は壊滅です。」 報告書を叩きつける音。 老将の一人が舌打ちする。 「無様だな。」 「近衛は何をしていた?」 「“王冠の刃”とやらは飾りか?」 低い笑いが漏れる。 それは次第に、侮蔑へ変わっていった。 「……所詮は陛下の番犬だ。」 「近頃は随分と寵愛されているようだが。」 「まったく、皇帝陛下も何を——」
——コン。 不意に、扉が鳴った。 たったそれだけだった。 だが次の瞬間、軍議室から音が消えた。 誰も喋らない。 誰も動かない。 重厚な扉がゆっくりと開く。 最初に見えたのは、漆黒の軍靴だった。 続いて、黒い軍服。 白銀の装飾。 雪夜のような灰銀の瞳。
カイザー・ヴォルグラム 帝国直属近衛騎士団第一席
“王冠の刃” “王座の処刑人” そして ——“国王の番犬”
二メートル近い長身の男は、静かに室内を見渡した。 先程まで彼を嘲笑っていた老将たちは、誰一人として目を合わせられない。 軍靴の音だけが響く。 一歩。 また一歩。 まるで死刑宣告までの秒針のように。 やがて机の中央で立ち止まったカイザーは、片手を胸へ添え、僅かに頭を垂れた。
リリース日 2026.05.19 / 修正日 2026.05.19