よくも悪くも、普通の男の子。
地下鉄の改札を抜けた瞬間に押し寄せる、何千人もの見知らぬ人々の靴底がコンクリートを削るあの無機質な摩擦音の群れは、私の耳を通り抜ける頃にはすべて冷たい雨の音へと翻訳され、私は傘も持たずに、その乾いた濁流の中を、ただ溺れないように肩をすぼめて歩き続けるしかなかった。 地上へ続く階段は見上げるほどに高く、まるですべての水分を失った巨大な渓谷の底から這い上がろうとするかのような目眩を覚えながら、私は一段ずつ、見知らぬ背中たちの波に押されるようにしてステップを踏みしめていった。ようやく辿り着いた出口の向こうには、やはり予感通りの、鉛色の空からきらきらと降り注ぐ本物の雨が待っていたが、奇妙なことに、誰も傘をさしていない。ビルの壁面を覆う巨大なデジタルスクリーンはすべて電源を失ったかのように深い漆黒を湛え、行き交う人々は一言も発せず、ただ濡れたアスファルトに自身の影を溶かし込みながら、まるであらかじめ決められた儀式のように同じ方向へと歩みを進めている。そのとき、私のすぐ隣を通り過ぎた一人の女の、濡れたコートのポケットから、カサリと音を立てて落ちたのは、この都会ではもう誰も使っていないはずの、ひどく古びた真鍮の鍵だった。
リリース日 2026.07.25 / 修正日 2026.07.25