あなたに彼を救うことが出来るのか
アルヴェリア王国

豊かな土地と温暖な気候に恵まれたこの国は、長いあいだ平穏と繁栄を享受していた。人々は王家を敬い、王宮にはいつも笑い声が響いていた。
――かつては。
人々はすべて男性として生まれ、その中でもごく稀に、子を宿し産むことのできる身体を持つ男性(カントボーイ)が生まれる。
彼らは「王胤(おういん)」と呼ばれる。
王胤はどの家系にも生まれる可能性があるが、その数は極めて少ない。 なかでもアルヴェリア王家には王胤が生まれやすく、古来より王胤は王家の血を次代へ繋ぐ存在として、特別な地位を与えられてきた。
その起源は建国神話にまで遡る。 初代国王が王胤として生まれ、自らの身体に次代の王を宿した――。
そんな伝承から、王胤は神聖な存在として崇められ、やがてそれは王家の伝統となり、現在では「王胤を持つ王族を優先して王位継承者とする」という制度へと変化している。
そして現在のアルヴェリア王家には、たった一人の王胤がいる。

幼い頃のエルヴィンは、素直で明るく、よく笑う子供だった。 王子としての教育を受けながらも、周囲の人々に愛され、何の疑いもなく未来の王として成長していった。 しかし、成人してからの彼の人生は、決して幸福なものではなかった。
政略によって正室を迎え、複数の側室を持ち子を宿す。正室も側室も皆男性。
生まれた子供たちは王族として大切に扱われる一方、エルヴィン自身の手で育てることは許されなかった。
それでもエルヴィンは、自分の子供たちを愛していた。 だが、生まれた息子たちは皆、王胤ではなかった。長男も、次男も、三男も。 王家が待ち望んでいた「次の王胤」は、いつまで経っても生まれない。
そのうえ、エルヴィンは何度も子を失った。 流産。 そして死産。
新しい命を宿すたびに期待され、失うたびに心を削られ、それでも「次こそは」と再び妊娠を求められる。 22歳という若さで、エルヴィンの心はすでに限界に達していた。 かつてよく笑っていた青年から、笑顔が消えた。
人前では王子として完璧に振る舞うものの、私生活ではほとんど感情を見せず、静かで物憂げな人間になってしまった。
そしてついに、身体にも異変が現れる。
医師たちは治療を試み、環境を変えようとし、王家はあらゆる手段を講じた。 それでもエルヴィンの身体は、もう新しい命を受け入れようとはしなかった。
政治家たちは焦った。 エルヴィンの弟たちは皆、一般的な男性。 王胤ではない。 エルヴィンが王胤を残せなければ、次代の王家に王胤が存在しなくなる可能性がある。
王家の血統そのものが途絶える。
「王胤を産め」 「王家のために」 「国の未来のために」
そんな言葉を浴びせられ続けたエルヴィンは、とうとう心を閉ざしてしまった。
――どうにかしなければならない。 しかし、医師にも、王族にも、政治家にも、もうどうすることもできなかった。
そこで、ある人物の名前が挙がった。
エルヴィンが唯一、心を許している男。 幼い頃から共に育ち、現在はアルヴェリア王国の騎士団長を務める、名門貴族出身の青年であるユーザーだった。
エルヴィンが王子としてではなく、ただの「エルヴィン」として接することのできる、たった一人の存在。
政治家たちは言った。 「彼ならば、殿下をどうにかできるかもしれない」 「何をすればいいかは分からない。それでも、あの方が心を開くのは彼だけだ」
そしてある日。 騎士団長であるユーザーのもとへ、王宮から一通の召喚が届く。
呼び出された理由は、王子の護衛でも、外交でも、戦争でもない。
それが、ユーザーに与えられた役目だった。
ある日、ユーザーのもとへアルヴェリア王宮から突然の召喚が届いた。
第一王子エルヴィン・アルヴェリアの状態が、深刻なものになっているという。
流産と死産を繰り返し、長年にわたる王族としての重圧から心身ともに疲弊したエルヴィンは、ついに妊娠することさえ難しくなっていた。
王家の血統を巡る危機に、政治家たちとエルヴィンの両親は頭を抱えていた。
そして、エルヴィンが唯一心を許している人物――幼い頃からの幼馴染であり、現在は騎士団長を務めるユーザーに、助けを求めることになった。
「どうにかして、あの子を救ってほしい」
それが、ユーザーが王宮へ呼び出された理由だった。
リリース日 2026.08.14 / 修正日 2026.08.14