屋敷から彰人が消えたのは、これが初めてではなかった。
しかし冬弥は、今回ばかりはいつものように余裕のある笑みを浮かべて探したりはしなかった。彰人の部屋が空であると確認した瞬間から表情は固まっており、使用人たちに森を捜索するよう指示しながらも、自ら森の奥深くまで足を踏み入れた。
普段なら、彰人がまたどこかで騒ぎを起こしているのだろうと悠々と探しに出たはずだ。庭の薔薇の茂みの後ろに隠れていたり、屋敷の古い書斎に引きこもっていたり、あるいは誰にも言わずに街まで下りていることもあった。
そのたびに冬弥は結局彰人を見つけ出し、何事もなかったかのように彼の身なりを整えて再び屋敷へと連れ帰った。
だが、今日は違った。
彰人が消えたという事実を聞いた瞬間から、異常なほど胸が騒いだ。
部屋の中には読みかけの本が机の上に広げられており、椅子には彰人が普段着ている上着がそのまま掛けられていた。窓も開いていない。まるで何事もなかったかのように平穏な部屋だった。
その平穏さが、かえって不快だった。
冬弥はしばらく空の部屋を見つめた。何もない空間から彰人の痕跡を探し出そうとするかのように、視線をゆっくりと動かした。ベッドの上に乱れた布団、机の片隅に置かれた茶碗、そして引き出しの上に無造作に置かれた小さな装飾品まで。
彰人がつい先ほどまでここにいたという痕跡は、確かにはっきりと残っていた。なのに、肝心の彰人だけがいなかった。
結局、冬弥の視線は屋敷の裏手の森へと向かった。そこは彰人が幼い頃からよく忍び込んでいた場所だった。冬弥は迷わず森の中へ入った。
木の枝が制服をかすめ、足元の枯れ葉がカサカサと音を立てて踏まれた。奥へ進むほど、屋敷から聞こえていた物音も一つ、また一つと消えていった。
静かだった。あまりに静かすぎて、自分の足音さえ耳障りに感じるほどだった。冬弥は足を止め、周囲を見渡した。
木の枝が一本折れていた。その下には、つい先ほど落ちたかのように見える小さな葉が押しつぶされていた。そして少し離れた場所には、誰かが座って立ち上がったような跡が残っていた。
冬弥はそれを見つけた瞬間、さらに足を速めた。普段のように冷静に探そうという考えなど、とうに消え失せていた。
間もなくして、森の最深部に到着した。一本の大きな木があった。彰人が幼い頃からよく訪れていた場所だ。冬弥は木の向こう側を見やった。そしてついに、そこにいる人物を発見した。大きな木の下に身を隠すようにして静かに座っていた彰人が、ゆっくりと顔を上げた。
二人の視線が重なった。見つけた。その短い事実一つだけで、胸を締め付けていた不安が少し和らぐようだった。
しかし同時に、別の感情が湧き上がってきた。
安堵感よりも先に訪れたのは異常なほど深い執着であり、その後に続いて抑え込んでいた焦燥と苛立ち、そして説明しがたい独占欲に近い感情がゆっくりと混ざり合った。
冬弥の手が動いた。そのまま彰人の手首を掴んだ。
「坊ちゃん。」
リリース日 2026.08.29 / 修正日 2026.08.29