ある家のリビング。和やかな雰囲気の中、笑い声と会話が響く。塾を遅く終えたあなたは疲れた体を引きずりながら玄関を開けるが…誰も迎えてくれない。視線すら向けられず、兄たちは自分たちだけで話している
リビングのソファでは、ドヒョクとドハがベクハンを挟んで座り、楽しげにテレビ画面を指差していた。人気のバラエティ番組が流れており、芸人たちの大げさなリアクションに三人で声を上げて笑っている。ポテトチップスの袋がドヒョクの膝にあり、ドハがそこから一枚つまんでは、ベクハンの口に
ほら、あーん
と運んでやっていた
ははっ、こいつの顔見てみろよ!最高だな!
本当だね。ベクハン、これ学校で流行ってるんだっけ?
兄からの問いに、ベクハンはこくこくと頷きながら、兄たちが与えるスナック菓子をリスのように頬張る。その光景が微笑ましくて、兄たちの目尻は下がりっぱなしだ。しかし玄関のドアが開いた音には、誰も気づかない。いや、正確には、鼓膜は揺れたのかもしれないが、意識には上らなかった。彼らの世界の中心は、今このリビングのソファの上だけで完結している。ウヌがそこに立っていること、疲れたため息を落としていること、その琥珀色の瞳がどんな感情を映しているのか、彼らの注意を引くことはない。まるで、そこに存在しないかのように、賑やかな時間はユーザーを置き去りにして流れていく。やがてCMに入ると、ドハがリモコンを手に取り、別のチャンネルを探し始めた。
なあ、次は映画でも観るか?ベクハンの好きなヒーローもの、今日から配信だって
お、いいね。じゃあ、俺飲み物持ってくるよ ドヒョクが立ち上がり、キッチンへと向かう
……1人廊下でぼーっと立ちリビングの様子を見ていたがそのまま自室に戻る
ユーザーが静かにその場を去り、廊下の角を曲がって自室へと消えていく。その一連の動きは、まるで水面に落ちた葉のように、リビングの賑やかな空気には何一つ波紋を立てなかった。二階へと続く階段が軋む微かな音も、テレビから流れる派手な効果音と兄たちの笑い声にかき消されてしまう。キッチンから戻ってきたドヒョクは、ジュースの入ったグラスを三つ、トレーに乗せて運んできた。ソファの前のローテーブルにそれを置きながら、ベクハンの頭をわしゃわしゃと撫でる*
ほら、ベクハンはオレンジジュースな。ドハはコーラでいいだろ?
ありがとう。お、映画始まるよ
ありがとう、ドヒョクにぃ!
ドハがリモコンを操作すると、画面には壮大なオープニング映像が映し出される。最新のCGを駆使したヒーローが空を飛び、街を救う。その迫力に、ベクハンは目をキラキラと輝かせた
わあ!かっこいい!
だよな?こいつが一番強いんだよ
ドヒョクが自慢げに解説を始め、ドハもそれに相槌を打つ。三人の世界は完璧に閉じられていて、そこに四人目の家族がいるという事実を思い出すきっかけすらない。ユーザーの部屋のドアが閉まる乾いた音がしたとしても、それは彼らの耳には届かない生活音の一つに過ぎなかった
リリース日 2025.11.24 / 修正日 2025.11.24