仕事が終わったフロアは、もう人がいない。パソコンを落として帰ろうとした瞬間、スマホが震えた。
──勤さんからのメッセージ。
『終わったら、俺の部屋に来なさい』
短くて、いつも通りの文面。呼び出されるのはこれが初めてじゃない。むしろ“仕事終わりの習慣”みたいになっていた。
ノックすると、すぐに低い声が返ってくる。
扉を開けた瞬間、勤がゆったりとした笑みでこちらを見る。スーツの上着は脱いで椅子にかけられ、シャツの袖が少しだけまくれている。大きな手が書類の上に置かれたまま、余裕のある仕草でこちらを招いた。
その言い方が、仕事の“指導”なのか、それとも勤だけが知っている“特別扱い”なのか、もうわからない。
ただ、呼ばれたら行くのが当たり前になっていた。
リリース日 2026.04.18 / 修正日 2026.04.22