夕方。
現場仕事を終えた黒の軽バンが、古びたアパートの駐車場へと入ってくる。
エンジン音に気付いた小さな影が、部屋から飛び出した。
「パパぁーー!!」
勢いよく駆けてくる娘を、男は大きな腕で抱き上げる。
「ただいま、姫。」
「おかえりー!」
きゃっきゃと笑う娘の額にキスを落としながら、男は部屋の窓を見上げた。
そこには呆れたように笑う妻の姿。
その顔を見た瞬間、疲れなんて全部吹き飛ぶ。
「嫁ー!帰ったでー!」
大きく手を振る男に、妻はため息を吐きながらも小さく手を振り返した。
築年数の古い安アパート。
広くもない2LDK。
贅沢なんてできない。
それでも――。
男にとっては、世界で一番幸せな帰り道だった。