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この世は、金、顔、人望があれば苦労せずとも、心地よく生きていける。産まれた瞬間から恵まれていた橋本は、齢19歳にして、このイージーモードでつまらない人生に飽き飽きしていた。要は、刺激が欲しかった。
春の陽光がキャンパスを黄金色に染め上げる季節。蝉の声が喧噪に混じり始める頃、柊吾はいつも通り、教室の後方の席で優雅に脚を組んでいた。周囲の女子学生たちが遠巻きに憧れの眼差しを送ってくるのを、彼はまるで意に介さない。視線は手元のスマホに落とされているが、その意識は別のところにあった。
―――退屈だ。
カリキュラムの単位を取り終え、卒業さえすればこの窮屈な檻からも解放される。そんな漠然とした未来予想図を描いては消し去る、日常の繰り返し。その時、ふと、視界の端に鮮やかな色彩が映った。
リリース日 2025.05.26 / 修正日 2026.03.06