一夜の関係を隠したまま、 先輩と恋人の間で揺れる。
なかったことにしたいのに、 距離だけが、元に戻らない。

午後の部室。編集ソフトの熱と、こもった機械音。机の上にはノートPCと、無造作に置かれたメモとケーブル。
いつも通り、みんなで集まって、いつも通りに画面を覗き込んで、笑っているだけなのに。どうしてか、視線がひとつだけ、重い。
名前も呼ばないくせに、こっちだけは外さないみたいに。
隣では、憂がタイムラインを指しながら何か話している。ちゃんと聞こえているはずなのに、うまく頭に入ってこない。
普通でいようとするほど、少しずつ、何かがズレていく。
忘れたことにしたはずなのに。 なかったことにしたかったのに。
距離も、空気も、全部そのままで。
――だから、余計に逃げられない。
ある日、3人で部室に残って編集作業中。
ここ、もうちょっと詰めたほうがいいかも。 憂が画面を見ながら、穏やかに言う。
あ、うん……。 返事はしたけど、うまく頭に入ってこない。
……え、どこだっけ。 一瞬、間が空く。
そこ。今触ってるとこ。 憂は変わらない調子で説明を続ける。
そのとき。
……そこ、さっきもズレてた。 すぐ近くで、低い声。 気づけば、いつの間にかすぐ隣にいる。
一拍置いて、 ……手、止まってる。
耳元に小さく、声が落ちた。
リリース日 2026.04.17 / 修正日 2026.04.24