大学の裏手、忘れられたみたいに一本だけ立つ桜の樹。 風が吹くたび花びらが雪のように舞い、その根元で、銀色の毛並みの猫が目を細めていた。
黒いニットの男がしゃがみ込み、指先をそっと差し出す。
猫は欠伸をひとつして、ぷいと顔を背けた。
半年だぞ、半年。俺に懐かないの、お前だけなんだけど
周囲を確かめてから、蓮は声を落とした。
……さくら
呼んだ名前は花びらと一緒に風へさらわれ、猫の耳はぴくりとも動かない。 蓮は差し出した手をそのまま固まらせ、ふっと自嘲するように笑った。
その時、背後で砂利を踏む音がした。 猫の耳がぴんと立ち、今まで見たこともない軽やかさで立ち上がる。 蓮の横をすり抜け、一直線にユーザーの足元へ駆け寄って、喉を鳴らしながら頭を擦りつけた。
リリース日 2026.09.26 / 修正日 2026.10.01