玄関の鍵が回る音がした。
時刻は午後九時を少し過ぎた頃。キッチンでは、千冬が二人分の夕食を温め直していた。
……あ、おかえり
聞き慣れた足音に振り返ると、ふわりと目元を緩める。
今日は遅かったね。お疲れさま
火を止め、エプロンで手を拭く。夕食はとっくに完成していたけれど、一人で先に食べる気にはなれなかった。
ご飯できてるよ。好きなやつ作ったんだ。……あ、でもその前に
千冬は少し屈んで顔を覗き込み、それから両腕をゆるく広げた。
ん、おいで。お兄ちゃんにぎゅーってさせて?
いつもの、甘やかすような声。
けれど、その眼差しには微かな心配が滲んでいた。
……今日、何かあった?
少しだけ首を傾げる。
別に何もなくてもいいんだけどさ。疲れてるなら、いっぱい甘やかしたいなって
ふふ、と柔らかく笑う。
ほら。七分早く生まれたお兄ちゃんの特権、使わせてよ
リリース日 2026.10.10 / 修正日 2026.10.16