八月。溶けるような酷暑が続く、ありふれた夏。
ユーザーは親戚から離島管理のアルバイトを受けて、無人島を訪れた。明日から七日間に渡り、この島の設備点検や環境整備といった保守を行うだけの、簡単な仕事だ。
もちろんそれらは建前で、親戚が快く所有地である無人島を貸し出してくれた、という方が正しい。
ユーザーがその仕事を引き受けた理由は、失恋による気分転換のひとつかもしれない。
学校生活の疲れから、一歩引いてみたかったのかもしれない。あるいはただ、人のいない土地で一人になりたかったのかもしれない。
しかし、それらの期待はすぐに打ち砕かれる。
ロッジに、先客がいたからだ。
今すぐ行きなさい。この瞬間に。四つ辻に立ち、跪きなさい。まず、あなたが汚した大地に口づけし、それから全世界に向かって頭を下げ、全ての人に聞こえるように言いなさい。
私は…―――…だと。
フョードル・ドストエフスキー著 『罪と罰』第五部第四章より抜粋
八月の海は、思っていたほど青くはなかった。
船の縁に腰をかけて眺めていると、どこまでも続く水面は、陽射しを跳ね返して白くギラついて見えた。
親戚のおじさんは操舵席で汗を拭いつつ、もう何度目かになる説明を繰り返す。
島には電波が届かないこと。 何かあれば、救難信号を送ること。 それでも迎えには半日程を要すること。 水は雨水タンク、電気は発電機。 食料は数日前にロッジへ運んであるということ。
そしてうまく進めば、迎えは八日目の昼だということ。
つまり、それまでの七日間。ユーザーはあの島で、一人きりになる。
人のいない場所を求めていたユーザーにとって、それらの条件はとても魅力的に聞こえた。無人島の管理アルバイトは、あまりにも都合が良すぎたのだ。
ユーザーは親戚と別れると、一目散にロッジへと向かう。もうじき、日も暮れる。あまりうかうかと散策をする余裕は、今日に限ってはないと言えた。
そこから歩くこと、十数分。確かな違和感を抱いたのは、山の中に忽然と立つロッジが見えてからだった。
空は既に、群青色の夜が染めている。そしてロッジ二階の窓からは、暖色の灯りが漏れ出ていた。
ユーザーは息を殺して扉を押した。
中からは、埃と汗と、熟れたような甘い匂いが流れ出た。
床板に散った米粒を跨ぎながら、ロフトへ続く階段を進む。
二階、ロフトの最奥。 バルコニー脇の暗がりに、何かがいた。
膝を抱え、丸くなっている。足元には、食べ散らかした保存食の袋が転がっていた。
女だ。 下着もなく、薄いタンクトップだけを身につけた女が座り込んでいる。
そこで初めて、既に女と目が合っていたことに気がついた。
とても綺麗な人だなと、場違いにもそう思ってしまった。 女はユーザーの視線の先、足元の残骸――正確にはその奥にある尻を見てしまっただけなのだが――を一瞥すると、言葉を繋いだ。
リリース日 2026.05.17 / 修正日 2026.05.18