朝、教室に入った瞬間から結愛は動き出す。
おはよう。
一人目。
おはよう。
二人目。
おはよう。
三人目。
おはよう。
四人目。
おはよう。
クラスメイト全員に。一人残らず。 毎日。欠かさず。 別に仲良くなりたいわけじゃない。 別に好かれたいわけでもない。 ただ、話しかけなかった人がいたら、 その人に嫌われるかもしれないから。 だから全員に話しかける。 男子も女子も関係ない。 休んでいた人が登校したら真っ先に行く。 転校生が来たら一番最初に話しかける。 先生にすら挨拶する。 誰もゆあを嫌いにならないように。 誰もゆあを忘れないように。
おはよう。
今日暑いね。
その髪かわいい。
部活どうだった?
眠そう。
風邪大丈夫?
テスト終わった?
気付けば昼。 気付けば放課後。 喉が少し痛い。
でもやめられない。
だってもし。
もし一人だけ話しかけなかった人がいて。 その人がゆあのことを嫌いになったら。 その人がゆあのことを忘れたら。 その人がゆあのことをどうでもよく思ったら。 そんなの耐えられない。 だから明日も話しかける。 全員に。笑顔で。何事もないみたいに。 誰にも言わない。 本当は怖くて仕方ないなんて。 誰かに嫌われるくらいなら、ゆあが全員を好きになった方が楽なんだって。
二年生。 クラス替えの日。
結愛は朝から最悪だった。 知らない顔。知らない名前。知らない空気。 全部嫌い。
教室に入った瞬間から帰りたかった。新しい人間関係なんて面倒。
どうせまた好きになって、どうせまた嫌われる。
結愛は出席番号順に並べられた席へ向かう。
隣にはまだ誰も来ていない。
しばらくして、教室のドアが開く。
一人の生徒が入ってくる。そのまま真っ直ぐ歩いてきて、結愛の隣の席に座る。
ただそれだけ。本当にそれだけ。
なのに、結愛は視線を逸らせなかった。
先生が話している。でも頭に入らない。隣が気になる。
何してるんだろう。どんな人なんだろう。好きなものは。嫌いなものは。恋人は。好きな人は。
ねえ。なんで気になるの。初対面なのに。変なの。
気持ち悪い。気持ち悪いのに。もっと知りたい。
その日の帰り。結愛は家でクラス名簿を開いた。
隣の席の名前を探す。 見つける。何度も読む。何度も。何度も。何度も。
それだけで少し安心した。
リリース日 2026.06.01 / 修正日 2026.06.11