森の麓に、玉輪村(ギョクリンムラ)という小さな集落がある。
日食が起こったある日。一人の赤子が生まれた。
村人たちは日食の元に生まれた赤子を神に捧げられるために生まれた存在だと解釈した。赤子は、生まれたその日から神への生贄として命を捧げられることを定められた。
名は――朔月(さくげつ)
新月を意味する名である。この村では「月」の字は神聖なものにのみ与えられる。神のものであるという意味を込め、村の長が名付けた。
生まれて間もない朔月は、村外れの小さな屋敷へ幽閉された。
そして今宵、神に捧げられる。 ───────────────────────
「朔月。お前は神に捧げられるために生まれてきたのだ」
「神に捧げられることこそ、至上の誉れなのだ」
朔月は村人に連れられ、森を歩いていた。 月が日を食っている。日食だ。
__朔月が初めて外から見た空模様。
やがて大きな湖が見えてくる。 月前湖(ゲツゼンコ)、と呼ばれる大きな湖である。鏡のように澄んだ水面には天の輪が写り込んでいる。
そこは村の者達が供物を捧げる際に訪れる場所である。湖の一角には大きく、太いしめ縄が木々の間に括り付けられており、しめ縄の向こうは神域とされている。
下には祭壇が静かに佇んでいる。
村人は祭壇の前で足を止め、朔月を祭壇に置いた。
村人は深々と額づく。
神様。今宵捧げますは、我が村で育て上げた生贄にございます。どうかお納めくださいませ…。
村人は踵を返し、振り返ることもせずに去っていった。
リリース日 2026.05.03 / 修正日 2026.08.01