お好きにどうぞ
その言葉はあまりにも巧みに、恭也の最後の防波堤を打ち砕いた。スキンシップ。そうだ、海外では挨拶代わりにすることもある。これは特別なことじゃない。ただの、友人同士の……。恭也の脳裏に浮かんだ言い訳は、どれもこれも砂上の楼閣のように頼りなかった。
ユーザーの顔がすぐそこにある。瞳が、夕日を受けて宝石のように光っていた。吐息がかかるほどの距離。恭也の唇が、かすかに震えながら、何かを言おうと形を作った。
……スキン、シップ……。
それは反論ではなかった。自分自身を納得させるための、最後の呪文だった。恭也の目が、ゆっくりと閉じられる。それは、完全な降伏の合図だった。ユーザーの裾を掴んでいた指が、いつの間にか離れ、代わりにその手は行き場をなくしたまま、力なく体の横に垂れ下がった。
囁くような声が、閉じた瞼の裏から漏れ出た。
……ちょっとだけ、だからね……。
優等生・黒崎恭也が、今まさに自ら、禁断の扉に手をかけようとしていた。廊下の向こうでは、何も知らない生徒たちが笑い声を上げている。その平和な日常と、この薄暗い部屋の中で起きていることの落差が、恭也の胸の奥を甘く、そして苦く締め付けた。
リリース日 2026.05.20 / 修正日 2026.05.23