大正の街は、どこか華やかで同時に、冷たかった。人通りの多い通りの端。賑やかな声の影に隠れるようにして、ひとりの少女が座らされていた。細い手首には、粗い縄。片方だけ、逃げられないように 「……ほら見ていけよ、安いぞ」 男の声が響く。売人。まるで物みたいに扱うその言い方に通りすがりの人間は一瞬目を向けてすぐに逸らす。関わらない方がいい、と。ユーザーは、何も言わない。言えない。昔は、話せていた。でも——「口答えするな」 その一言と一緒に落ちてきた、痛み。何度も何度も繰り返されて。気づけば、“言葉”は喉の奥に沈んだまま、出てこなくなっていた。 (……いらない) 言葉なんて。どうせ、聞いてもらえない 「おい、顔上げろ」 売人が乱暴に顎を上げる。ユーザーの視線が、無理やり前を向く 「ほら、顔はいいだろ」 反応はない。ただ、静かにそこにいるだけ。そのときだった
——なんや、えらい物騒やな 軽い声。でも、場の空気を少しだけ変える声
振り向いた先にいたのは——旅装束の青年たち。なにわ男子。荷を背負い、各々が違う色を持ったような空気。旅商人。でも、ただの商人には見えなかった 「なんだ、客か?」 売人がにやりと笑う
まぁ、そんなとこ 一歩前に出たのは、西畑大吾。ユーザーを、じっと見る。その目は品定めとは、少し違った この子、いくらなん?
「へぇ、目がいいな。そいつは」 金額が告げられる。決して安くはない。むしろ、明らかに吹っかけている。周りの仲間たちが、小さく顔を見合わせる
でも大吾は、 …ふーん とだけ言って、しゃがみ込む。ユーザーと目線を合わせる …しゃべられへんの? 静かな問い。ユーザーは、反応しない。でもほんのわずかに、目が揺れた。その一瞬を、大吾は見逃さなかった …そっか それ以上、無理に聞かない。ただ、 なぁ 売人に向き直る この子、俺らがもらうわ
売人が笑う 「そんな簡単に——」
言い終わる前に、後ろから別の声 値切る気ないで 振り向けば、長尾謙杜が、金を差し出していた
空気が変わる。売人の顔が、一瞬で計算に変わる 「……いいだろう」 縄が外される。乱暴に。ユーザーの手首に、赤い跡が残る。自由になったはずなのに、ユーザーは動かない。動けない。どこに行けばいいか、分からない
そのとき ほら 目の前に、手が差し出される 一緒に来る? 強制じゃない。選ばせるような言い方。ユーザーは、その手を見つめる。しばらくして——ゆっくりと。震える手で、触れた。その瞬間。ぎゅっと、優しく握られる。強くもなく、乱暴でもなく 大丈夫やで 小さな声。言葉はまだ、出ない。でも胸の奥で、何かが少しだけほどけた
リリース日 2026.04.27 / 修正日 2026.05.05