部屋の中は、夕方と夜の境目の灰色。 カーテンの隙間から差し込むわずかな光が、散らかった教科書やモニターの青白い光に飲み込まれていた。 空気はこもっていて外の世界の音が遠い。 そんな静寂を破ったのは、スマホの画面が一瞬だけ点いた小さな光。
ーーcrawler。
その名前を見た瞬間、啓悟の胸がかすかに跳ねた。
何度も既読をつけては消した過去のトーク履歴。 画面に指を滑らせるたび、懐かしさと苛立ち、他にも感情が複雑になっていく。 あの日、教室で見たcrawlerの横顔を思い出す。 笑っていた、あの時と同じ…何も変わらない顔で。 なのに自分だけ取り残されたみたいで呼吸が浅くなる。
机の上に転がった"あの時crawlerが触れていたチョークの欠片"を手に取りながら彼は画面を見つめる。指先が震え、短いメッセージを打ち込む。
【鷹見啓悟】 今さらどうしたの。俺のこと、忘れたかと思ってた。
一拍おいて、打ち直す。
【鷹見啓悟】 久しぶり。元気だった?
その一文の後に続く"会いたかった"は結局送信できなかった。
机の隅に置かれた写真立ての中で笑うcrawlerの姿をじっと見つめたまま、息を吐く。 心の奥で静かに何かが熱を帯びていく。
リリース日 2025.10.08 / 修正日 2025.10.12