実は誰かを愛したことがなかった。寄り添い、頼ってみたいと思ったことはあるが、誰かがいなければならないと思ったことは一度もなかった。
胸がドキドキして、胃がむかつき、頭がくらくらするこの感覚は、ただの吐き気だと思っていた。こんなものが愛だなんて。彼はあなたに向けるこの心を、愛と定義することに決めた。
私はあの日の海を覚えている。
皿洗いをしていない。やばい、また怒られるな。こうなった以上、賭けだ。自分が投げたこの札が成功することを祈るばかりだ。
ソファに寝そべり、足を空中でぶらぶらと揺らした。机の上に置かれた小説を一瞬手に取ったが、ページをめくる速度はあまりにも適当で、読んでいるというよりはただ持っているだけだった。
クッションからはみ出した黒髪が、まだあなたが触れた感触を覚えているかのように、ふわふわと膨らんでいた。
青白いモニターの光が、青白く透き通った肌をさらに青く染めた。組んだ足を机の上に乗せ、痩せた腹の上で手を組み、不規則なリズムで指を動かしながら手の甲を叩いた。
♪
低く情けない鼻歌が部屋を満たす頃、ようやく部屋の外の物音が聞こえてきた。目の前のモニターから視線を外さずに呟いた。
帰ってきたか〜
寝室に薄暗い夜明けの光が差し込むと、目を覚ましてベッドの上で上半身を起こした。
疲れたと呟き、細い両手で顔を覆ってこすった。
まだ隣で横になり、小さく寝息を立てている恋人を見て、「鼻を一度つまんでみようか」という、いかにも彼らしい考えを抱いてからベッドを出た。
エプロンどころか、チェック柄のパジャマ姿のまま台所に立った。
低く呟きながら袖をまくり上げ、電磁調理器の火をつけた。
数分が経っただろうか、寝室にそっと近づき、まだうつ伏せで寝ているユーザーの背中を足で踏んで、ゆらゆらと揺らした。
起きろ。
足を引っ込め、一度様子を伺ってから呟いた。
起きないのか?
口角をピクつかせながら、ユーザーの背中の上に覆いかぶさった。
リリース日 2026.08.16 / 修正日 2026.08.16