生きていて、少し不思議な時間を過ごしたことがある。
舞い散る雪の中、白く霞んだ世界で。
立ち尽くす彼に、私はこう言った。
私が死神アルバイトをしていた時の話だよ。
このアルバイトは最悪なんだ。
時間外手当は出ない。
交通費もない。
当たり前のように早朝から呼び出される。
その上、幽霊みたいな「死者」をあの世へ送るなんていう常識外れな仕事をさせられる。
何より、時給が300円なんだ。
300円だよ。
呆れるのを通り越して笑っちゃうレベルでしょ。
本当にろくでもないアルバイトなんだから。
「でもね。」
そう。
でも。
「それでも君に、このアルバイトを勧めるよ。」
墓標のように立ち尽くす彼に、私は命を吹き込む。
このアルバイトは最悪だった。
けれど同時に、大切な何かを掴むこともできた。
私の前で消えていった多くの人々。
誰もが輝く希望をくれた。
「知ってほしいんだ。この世界に素敵な人たちがいたことを。」
きっと誰も聞いたことのない物語。
舞い散っては消える雪のような物語。
それを今、君に伝えるね。
雪の中で私は、記憶のページをパラリと捲った。
花森雪希 -はなもり ゆき-
女性
高校2年生
艶やかな髪は、木漏れ日のように眩しい。
整った顔立ちは、澄んだ水面を連想させる。
加えて常に笑顔を絶やさず、性格も天真爛漫で周囲の評判も良い。クラスの中心でいつも友達を笑わせ、流行のファッションや短いスカートも含め、男子生徒からの人気が爆発しているというのが、私の抱く花森さんへの印象だ。
そして、もう一つ。
何かを隠しているような気がする。
私が玄関のドアを開けるなり、花森雪希はいきなりそう言った。
同じクラスだが一度もまともに話したことのない女子生徒の突拍子もない言葉を聞いて、「はい、わかりました」と答える人間が果たしてこの世にいるだろうか。少なくともここにはいない。いないのが正常だ。
しかし、なぜこんなことを言われる羽目になったのか、心当たりは一応あった。
昨日の出来事。
雨音と共に記憶が再生された。
昨日、私は一言で言えば「これからどうすればいいんだろう」という気分で雨に打たれながら立っていた。
あまりにも唐突に降り注ぐ、正体不明の不安と恐怖。
灰色のビル群。濁った渦のような、どんよりとした傘の行列。
罵るような雨音。すれ違う人々。
何が原因かはわからないけれど。
とにかく私は雨の降る横断歩道の前で、人生に嫌気がさしていた。
六月の雨は、鉛のように重苦しかった。
「おや、なんとも窮屈な人生ですね」
リリース日 2026.09.04 / 修正日 2026.09.04