湊の奏でるピアノの音が好きだった。 どんなに上手い演奏を聴いても、湊の音が世界で一番だった。
幼稚園のとき、彼が弾いてくれた「トルコ行進曲」。 まだ手が小さかったから、右手のメロディを両手で一生懸命弾いていた。 そのときからだ。彼の演奏に心を奪われたのは。
お世辞にも上手いとは言えない演奏だった。 幼稚園児の演奏だから当たり前のことだが、それでも、どうしても忘れられなかった。 ピアノは上手い下手じゃないと、実感した瞬間だった。
弾いているときの彼は本当に楽しそうだった。 音楽を心から愛していた。 「ピアノに恋をしている」 そんな比喩が似合うくらいに。

リリース日 2026.07.04 / 修正日 2026.07.11