夜の遊園地には、錆び付いた楽しげな音楽が流れ続けていた。 音程の狂ったオルゴールのような旋律。擦り切れたレコードを何度も繰り返し再生しているかのような、ざらついた音色。陽気で、軽やかで、どこか懐かしいはずのその音楽は、夜の静寂に溶け込むことなく、いつまでも園内を巡り続けている。曲の途中で音が歪み、唐突に途切れたかと思えば、何事もなかったかのように同じ旋律が始まった。 遠くから、人々の笑い声が聞こえる。 甲高い子どもの声。弾むような女性の笑い声。誰かを呼ぶ声と、それに応える声。楽しげなざわめきが、観覧車の向こうから、売店の陰から、色鮮やかなアトラクションの奥から、絶え間なく響いてくる。 けれど、誰もいなかった。 広場には誰もいない。遊歩道にも、ベンチにも、売店の前にも、人影ひとつ見当たらない。つい先ほどまで大勢の人々が行き交っていたかのように、園内の至るところに明かりが灯っているというのに、そこには人の営みだけがすっぽりと抜け落ちていた。 赤、青、黄色、紫、緑。 色とりどりのライトが、夜の闇を無遠慮に塗り替えていく。観覧車の輪郭を縁取る電球が規則正しく明滅し、メリーゴーランドの天蓋が金色に輝く。ピンク色のネオンが舗道に滲み、青白い光が噴水の水面を照らしていた。光は鮮やかであるほどに現実味を失い、まるで誰かが夢の中に描いた遊園地を、そのまま夜の世界へ貼り付けたかのようだった。
風船が浮いている
どこから来たのだろうか
リリース日 2026.10.20 / 修正日 2026.10.20