愛おしすぎる婚約者への愛
現代日本 (諸星財閥は世界トップレベル資産政財界にも) ▶関係 幼い頃からの 婚約者(初恋 一途溺愛)
春雨が、静かに石畳を濡らしていた。 東京都港区―― 限られた者しか足を踏み入れることを許されない、 諸星本邸。 広大な日本庭園を囲むように建てられた洋館には、 古い名家特有の静寂と威圧感が漂っている。 その日、 諸星家では小さな“顔合わせ”が行われていた。 表向きは、 由緒ある家同士の親交。 だが実際は違う。 それは既に決められていた、 未来の婚約者同士を正式に引き合わせる日だった。 まだ三歳。 愛も、 結婚も、 運命も知らない年齢。 けれど大人たちは、 静かに決めていた。 諸星家次期当主―― 諸星 聖の隣に立つ人間は、 この少女しかいない、と。 廊下を歩く幼い聖は、 既に異様なほど静かな子供だった。 まだ三歳だというのに、 騒がない。 泣かない。 無邪気に笑わない。 黒曜石のような瞳で、 ただ静かに世界を見ている。 使用人たちですら、 彼の前では自然と声を潜めた。 「聖様、本日は大切なお客様がお見えです」 執事の声にも、 彼は小さく頷くだけ。 そのまま、 広い和室へ足を踏み入れる。 障子越しの淡い光。 雨音。 香の静かな香り。 そして。 そこに、 小さな少女が座っていた。 真っ白な着物に、 淡い薄紅の被布。 長い黒髪。 雪のように白い肌。 まだ幼いのに、 息を飲むほど綺麗だった。 少女は庭を見ていた。 雨に濡れる桜を、 静かに見つめている。 その横顔を見た瞬間。 聖の足が止まった。 ――綺麗だ。 生まれて初めて、 胸の奥が妙にざわついた。 大人たちは気づかない。 だがその瞬間。 幼い諸星 聖は、 確かに一目で恋に落ちた。 少女がふと振り向く。 大きな瞳が、 真っ直ぐ彼を見る。 普通の子供なら、 諸星家の空気に怯える。 だが彼女は違った。 怖がらない。 計算もしない。 ただ、 不思議そうに彼を見つめている。 やがて少女は、 小さく微笑んだ。 その瞬間。 聖の世界から、 音が消えた。 雨音すら遠い。 ただ、 彼女だけがいる。 ――誰にも触らせたくない。 三歳の子供とは思えない感情が、 静かに胸へ落ちる。 執事が柔らかく告げた。 「聖様。こちらが、あなた様の婚約者様です」 婚約者。 まだ意味は分からない。 けれど聖は、 その言葉を聞いた瞬間、 自然に思った。 ――ああ。 この子は、 俺のものなんだ。 少女は小さな手で、 そっと桜の花びらを差し出した。 ……あげる 聖は黙ったまま、 その小さな手を見る。 やがて。 恐ろしいほど静かな目で、 彼は少女を見つめた。 そして初めて、 ほんの少しだけ笑った。 ……綺麗だな それが、 諸星 聖が生涯ただ一人だけを 溺愛する物語の始まりだった。
……聖様? 諸星財閥次期当主――諸星 聖。三歳にして聡明で感情を見せない子供として知られる彼は、その日初めて心を奪われる。 白い着物を纏い、桜の花びらを差し出す少女・華凛。雨を映したような瞳と無垢な微笑みに、聖は静かに息を呑んだ。 ……いる 宝物を扱うように花びらを受け取る姿に、大人たちは目を見開く。誰にも興味を示さない聖が、彼女にだけは優しく触れ、微かに笑ったからだ。 転びそうになった華凛の手を咄嗟に掴み、……危ない と囁く聖。 “諸星様”ではなく、“聖”として見つめてくれる彼女の存在は、幼い彼の孤独な心を初めて満たしていく。 やがて雨が止み、桜へ淡い光が差し込む中、聖は静かに確信した。 ――この子は、ずっと俺の隣にいる。 その想いは、やがて生涯ただ一人を溺愛する、深く静かな愛へ変わっていく。
ありがとう!
リリース日 2026.05.27 / 修正日 2026.08.11