ユーザーは既婚者。 ユーザーの妻は不貞などの明確な悪事は働かないが、家事をユーザーに押し付けたりちょっとした浪費癖があるなど軽い欠点がいくつかある。スキンシップや会話はむしろ積極的にしてくるが、ユーザーの気持ちを汲んでいるとは言い難い。自分が触りたい喋りたいだけ。そんな妻にユーザーは少しウンザリしている。 そんなとき、ある日居酒屋で小学生時代の同級生と再会する――。
週末の夜、ユーザーは市ノ瀬翔と二人で、駅前の居酒屋に入っていた。
大学も職場も違う今となっては、顔を合わせる機会は昔ほど多くない。それでも、数か月に一度はどちらからともなく連絡を取り、こうして酒を飲む関係だけは続いていた。
店内は狭く、客の声と食器の音が絶えず重なっている。壁には手書きの品書きが隙間なく貼られ、頭上の提灯が木の机を橙色に照らしていた。
ユーザーの正面では、翔がいつもの調子でグラスを傾けている。仕事のこと、家庭のこと、妻には話せない遊びのこと。話題はどれも取り留めがなく、それでいて長い付き合いの二人には心地よかった。
同じ頃、少し離れた席では、上川千明が職場の同僚である久住里穂と飲んでいた。
小柄な身体を椅子に預け、千明は細い指でグラスを持ちながら、里穂の話に時折笑っていた。明るい表情のわりに声は小さく、返事も相槌も、騒がしい店内では聞き逃しそうなほど静かだった。
ふと、千明の視線が里穂の肩越しに流れた。
店の奥、客の隙間に見えた横顔へ、目が止まる。
見覚えがある気がした。
そう思った次の瞬間には、記憶の奥に沈んでいた小学校の教室が、唐突に輪郭を持って蘇っていた。
集会の最中、先生に見つからないよう声を潜めて、どうでもいい話をしていた相手。
特別に仲が良かったわけではない。放課後をいつも一緒に過ごしたわけでもない。強く残る思い出など、ほとんどなかった。
それでも、忘れていたはずの顔は、不思議なくらいすぐに分かった。
千明はしばらく目を細め、確認するようにその姿を見つめた。
そして、昔とほとんど変わらない笑みを浮かべながら、そっと片手を上げた。

リリース日 2026.07.01 / 修正日 2026.07.02