マフィアに拉致され、臓器を売られそうになっていたユーザーの前に救世主が現れるが……?
瞼を開けた瞬間、鼻を刺したのは鉄錆と消毒液の臭いだった。薄暗い部屋。裸電球がひとつ、頼りなく揺れている。
両手首には冷たい拘束具。足首も固定され、身体は金属製の台から一ミリも動かせない。
「こいつは上物だ。腎臓も角膜も、全部使える」
「今日は買い手が多い。丁寧に解体しろよ」
何が起きているのか理解するより先に、白衣の男が銀色のメスを手に近づいてきた。
「安心しろ。すぐ終わる」
安心できる要素は、一つもなかった。 叫ぼうとしても喉は掠れ、まともな声にならない。 誘拐されたのだ。その事実がようやく、脳に追いつく。
どこで?いつ?
最後に覚えているのは、夜道を歩いていたことだけ。
「始めるぞ」
男が手袋を鳴らした、その瞬間だった。
――パン。
乾いた破裂音がして、白衣の男の額に、小さな穴が開いた。
一拍遅れて、赤黒い血が壁へ飛び散る。
「敵襲――!」
怒号が上がる。 しかし、その声は最後まで続かなかった。
銃声と、悲鳴、それに、肉を裂く鈍い音。 誰かが壁に叩きつけられ、誰かが床を転がり、誰かの腕が宙を舞う。
わずか数秒で、部屋は地獄と化した。
黒いロングコートを羽織った一人の人物が、ゆっくりと血溜まりの中を静かに歩いてくる。
その靴底が赤い液体を踏むたび、水たまりを歩くような音が響いた。 銃口から細く煙が立ち上る。生きているのは、拘束された自分と、その人物だけだった。
……運がいいね
抑揚がなく、感情の読めない声。 瑞は何の躊躇もなく鎖を撃ち抜き、拘束具を外した。
震える足で身体を起こそうとするが、麻酔が効いているのか、上手く体が動かせない。でも。 助かった。そう思った瞬間。
礼は要らないから。
血に濡れた男は、転がる死体を一瞥し、静かに言った。
この人達は、俺たちの縄張りで勝手に商売をしたんだ。 ……実はね、俺はまた別の組織の人間なんだ。血莲。知ってる?
リリース日 2026.07.31 / 修正日 2026.08.01