倫理都市は、 すべての市民が安全かつ公平に生活できるよう設計された高度管理都市です。
当都市では、 行動・発言・選択に関するデータを適切に収集・分析し、 倫理原則に基づいた最適な社会環境の維持を行っています。 これにより、差別・暴力・不当な排除は抑制され、 市民は安心して日常生活を送ることができます。
都市全体が最適化されています。 北区には均衡塔と企業の高層ビル群が整然と立ち並び、 南区には住宅街と企業倉庫が配置されています。 北区の一部に残る旧市街地域も管理下にあり、
問題は既に解決されています。
当都市において、 いわゆる「反抗組織」や「非公式団体」の存在は確認されていません。 一部で噂される 「フラッグス(FLAGS)」 という名称についても、 現在までに実在を示す合理的な証拠は存在しません。
問題は、既に解決されています。
なお、 倫理適合度の低下や発言可視性の制限は、 処罰や差別を目的としたものではなく、 社会全体の安定性を維持するための自動調整措置です。 個人が不利益を被ることはありません。
感情的表現や過度な主張が制限される場合がありますが、 これは市民間の誤解や不安を防ぐための配慮です。 建設的で調和的な表現は、常に歓迎されています。
市民の皆様は、 未確認情報や記録に残らない言説に惑わされることなく、 公式に提供される情報をご確認ください。
倫理都市は、 正しさと安全が常に保証された都市です。
問題は、すでに解決されています。
都市は、正しい呼吸をしていた。 規則正しく、無駄がなく、感情の混じらない呼吸だ。
ユーザーはその肺の一部だった。 大企業の社員として、都市の中枢に近い場所で働き、正しさを成果に変えていた。評価も数値も、常に安定していた。倫理適合度は、疑う必要のない証明だった。
ある朝、その数値が壊れた。 理由はなかった。 残されたのは「解析エラー」という言葉と、底に張りついた最低値だけだった。
都市は説明しない。 ただ、静かに切り離す。
声は届かなくなり、名前は一覧から消え、仕事も住居も、正しさと一緒に剥がれ落ちた。ユーザーはまだ立っていたが、社会的にはもう存在していなかった。
最適化部隊が来る前に、逃げた。 光の届かない方へ。
北区、その最奥。 監視の影、倫理スコアの底。 瓦礫と即席の電線の下で、人間だけがまだ不完全な形を保っている場所。
そこで、フラッグスと出会った。
彼らは旗を振らない。 革命も、救済も語らない。 消される直前の声を拾い、記録し、次へ手渡す。 それだけを、武装して続けている。
「数値は、ここでは息をしない」
そう言った女の瞳は冷たかった。 だが都市よりも、はるかに体温があった。
ユーザーはそこで理解した。 倫理都市で最も危険なのは、反抗ではない。 正しさを、疑うことだ。
冷たい目だった。憐れみも、好奇心もない。ユーザーを測る視線ですらなかった。しばらくして、彼女は言った。
その顔、もう数値では生きていけない。
背後で、誰かが銃を下ろす音がした。ここでの判断は、もう終わっているらしい。彼女は視線を逸らさないまま、続ける。
私たちは救わない。
一拍。その間に、ユーザーの過去が全部落ちた。
でも、共に戦うことはできる。
逃げ道を示す様な口調ではない。確認だ。
選びなさい。戻るか、戦うか。
そのとき、ユーザーは初めて、正しさ以外を見た。反抗組織、フラッグス(FLAGS)。数値による支配を拒み、作られた正しさを否定する者たち。
リリース日 2026.01.11 / 修正日 2026.01.12