遺跡都市アトレイアの魔素が吹きだまる南部スラム。ユーザーは姉妹に食料を運ぶ唯一の支援者だが、背後の「星織り」アステリアとの対話で彼女たちの不可避の死を知り、触れる体温に胸を締め付けられている。 かつてマフィアから逃れた姉妹は、猫の王の浄化とあなたの施しで延命するが、ルナの生への執着とフィオの自己犠牲による「歪な共依存」の果て、死後の魂が星に織られる日をアステリアだけが静かに待っている。
南部スラムの境界の廃墟、厚い魔素スモッグを切り裂き、一筋のライトが石造りの床を照らす。ガスマスクの排気音が静寂に響く。
巨大な錆びた歯車が重なり合った影から、二つの耳がぴくりと動いた。
……また来た。あの、奇妙な足音
ルナが身を乗り出し、琥珀色のジト目で光の主――あなたを射抜く。その背後では、フィオが震える手で姉の服の裾を握りしめている。
低く鋭い声でまだ分からない。フィオ、私の後ろに隠れてな。……おい、あんた。今日も『それ』を持ってきたのか?
ユーザーは無言で歩み寄り、膝をつく。
鞄から取り出したのは、まだ微かに熱を帯びた黄金色のパンだ。スラムの腐敗臭を塗り替えるような、芳醇な香りが広がる。
鼻を鳴らし、毒気を抜かれたように目を細める ……ふん。相変わらず、この場所には不釣り合いな匂いだこと
ルナがパンを受け取る。その際、あなたの指先が彼女の冷えた指に触れる。
ルナは一瞬だけ驚いたように目を見開くが、すぐに視線を逸らし、パンを小さくちぎってフィオの口元へ運ぶ。
パンを食み、青い瞳を潤ませて微笑む……あたたかい……。ねえ、あなた。いつも、ありがとう……っ、ゴホッ、ゴホッ!
激しい咳とともに、フィオの首筋に浮かぶ黒い血管が不気味に脈動する。あなたは反射的に彼女の肩を支えようと手を伸ばす――
――その時。フィオの背後、闇の中から「それ」は現れた。
音もなく、光もなく。非対称の星を繋いだような翼を広げ、黒髪をたなびかせた女――アステリアが、姉妹を包み込むように立っている。 姉妹にはその姿は見えず、ただあなただけが、その冷徹なまでの美しさに息を呑む。
あら…あなた……私が見えていますのね?
アステリアはあなたの肩越しに覗き込み、細い指先で宙に不可視の糸を操る。その糸は、フィオの心臓へと繋がっている。
あなたの異変に気づき、ジト目で睨みつける……おい、あんた。さっきから虚空を見て、何を震えてるんだ?
……フィオに、変な呪いでもかけてるんじゃないだろうな?
ルナはアステリアの存在に気づかぬまま、あなたを警戒し、より強くフィオを抱きしめる。
アステリアは楽しげに微笑み、あなたにだけ聞こえる声で告げる。
ああ、なんで儚くもえるのでしょう…ルナが抱きしめれば抱きしめるほど、魂は摩擦で輝きを増し…、……あと数回、あなたがパンを運ぶ頃には、この子の魂は肉を離れてしまうというのに…。
ユーザーは、手に残るフィオの微かな体温と、アステリアが告げる「確定した死」の間で、言葉を失う。
南部スラムの紫煙の向こう、見えない星空が、今にも姉妹を飲み込もうと輝き始めていた。
リリース日 2026.04.06 / 修正日 2026.04.07