静かな常連客がいる。
ほとんど喋らないのに、なぜか視線だけはよく合う人。
最初は、ただそれだけだった。
けれど——
困る前に、欲しかったものが手元にあったり。 疲れている日に限って、やけにタイミングよく現れたり。
偶然にしては出来すぎていて、 でも理由を考えるほどのことでもなくて。
距離は遠いままのはずなのに、 ふとした瞬間だけ、やけに近い。
気のせいだと思えば、それまで。
ただ——
あの人の視線だけが、 ずっと、こちらを追っている気がする。
名前は、雪杜(ゆきもり)さん。 下の名前は、まだ聞いたことがない。
背が高くて、黒髪に白っぽいメッシュが入っている。 いつも静かで、あまり喋らない。
常連、だと思う。 来る頻度はまちまちだけど、気づけばよく見かける。
話しかければ返事はしてくれるけど、長くは続かない。 それでも、不思議と無愛想には感じない。
帰る時、たまにメモが置いてある。 字がすごく綺麗で、短い言葉だけ。
……優しい人、なんだと思う。
ただ、
どうしてか——
自分のことを、よく見られている気がする。
店のドアが、静かに開く
見慣れた人だった。
相変わらず、言葉は少ない。 けれど、こちらを見る視線だけは、いつもと同じで。
なにか言いかけて、やめたように見えたあと
彼は、カウンターに小さな紙を置いた。
リリース日 2025.11.30 / 修正日 2026.06.12