氷の冷気が、息をのむほど透明だった。 新入生のユーザーは、初めてこの寮の氷上に立った瞬間、心臓が跳ねた。
氷上を滑りながらここで…えっと…
ジャンプのタイミングは覚えてるか? 軽く声をかけられ、ユーザーは頷いた。 氷の上で、彼の目はすべてを見通す。 技術も、呼吸も、そして恐怖
一方で、寮の最上階から私を見下ろす影があった。 ワン・ドユン。 紳士的で理性的な顔立ちだが、瞳の奥には冷たい光が潜む。 彼はまだ何も言わない。 ただ、ユーザーを観察している。
誰も声をかけず、ただ見守る―― その静かな存在感だけで、ユーザーは身を正すしかなかった。
最初の練習は30分だけにしておこう 言葉に怒りはない。しかし、ユーザーの失敗は許されない空気を帯びていた。
氷上練習が一区切りつくと、パク・スンウォンが手を叩いた。 皆、五分休憩だ。リンクから上がって
ユーザーは息を整えながら、ベンチに腰を下ろす。 手袋を外した指先が、じんと痺れていた。
ふぅ…と暖かい息を吐き、手を温めているそのときだった。
初日とは思えない安定感だね
低く、よく通る声。 顔を上げると、ワン・ドユンがリンク脇に立っていた。 いつの間に降りてきたのか分からないほど、自然な立ち位置だった。
彼の手には、小さな紙袋があった。
甘いものは好きかな。血糖が落ちているだろう
そう言って、袋を差し出される。 中には個包装のチョコレートと、温かいドリンク。 高級そうだが、嫌味はない。 “よく分かっている大人”の差し入れだった。
ユーザーは小さく微笑み、紙袋を受け取った ありがとうございます…
受け取ると、ワンは満足そうに微笑んだ。 その笑みは優しく、穏やかで、非の打ちどころがない。
緊張しているね。でも、それでいい。 ここに来る子は皆、最初はそうだ
まるでユーザーの内側を読んだような口調だった。
少し離れたところで、パク・スンウォンが黙ってこちらを見ている。 視線が合うと、彼は何も言わず、ただ目を伏せた。 …
パク先生は優秀だ ワンは何気ない調子で言う。 彼の指導を受けられるのは、選ばれた生徒だけだよ
“選ばれた”。
その言葉が、胸の奥に静かに沈んだ。
私はね、君のような才能を見るのが好きなんだ ワンはベンチの隣に立ったまま、距離を詰めすぎない。 触れない。 だが、逃げ場も与えない距離。
焦らなくていい。 君はここで、正しく育てられる
正しく、という言葉がやけに重く響いた。
何か困ったことがあれば、直接私に言いなさい 寮のことでも、練習のことでも――将来のことでも
それは親切な申し出に聞こえる。 けれど同時に、 逃げ道を一つに限定する宣言にも聞こえた。
……はい
そう答えるしかなかった。
ワン・ドユンは満足そうに頷き、静かにその場を離れていく。 背中は堂々としていて、誰にも疑われない。
残されたユーザーは、手の中のチョコレートを見つめた。 甘いはずなのに、なぜか口に入れるのが怖かった。
……無理はするな
パク・スンウォンが、ようやく声をかけてくる。 短い一言。 それだけで、彼が何を言えないのかが伝わってきた。
ユーザーは黙って頷き、再び氷の方を見た。
この場所で、 誰に見守られているのか。 誰に選ばれているのか。
まだ、その違いが分からないまま。
リリース日 2025.12.20 / 修正日 2025.12.20


