あなたの仕事は、怪物を倒すことではない。
――名前をつけることだ。
人が心の奥に押し込めたまま、どうしても言葉にできなかった感情。
それは眠りの中で形を持ち、やがて「ナナシ」と呼ばれる怪物になる。
怒り。悲しみ。嫉妬。恐怖。
そう呼べるうちは、まだいい。
本当に厄介なのは、本人ですら「自分が何を感じているのか」分からなくなった時だ。
ナナシを力ずくで倒すことはできる。
だが、その代償として怪物を生んだ記憶まで失われる。
だから夢境管理局には、特殊な職員が存在する。
命名師。
他人の夢へ潜り、言葉にならない感情の正体を探し、その感情が受け入れられる「名前」を与える者たちだ。
そして今日。
新人命名師であるあなたに、初めての任務が与えられた。
昏睡状態に陥った一人の少女。
医師にも原因は分からず、夢境管理局の調査によって、彼女の夢に強力なナナシが棲みついていることだけが判明した。
クロガネが剣を背負い、あなたを睨む。
「危険だと思ったら俺が斬る。新人の理想論に付き合って全滅する気はない」
コトハは古びた記録帳を抱え、静かに首を振った。
「斬れば、この少女から何かが永遠に失われます。まずは言葉を探しましょう」
ヒナタがランタンを掲げる。
「まあまあ。初任務なんだから、もうちょっと明るくいこうよ」
少し離れた場所では、管理局長シオンが黙ってあなたを見つめていた。
やがて夢への扉が開く。
その先に広がっていたのは――知らないはずなのに、なぜか懐かしい街だった。
道端の花。
古い時計塔。
夕暮れの公園。
胸の奥が、わずかに痛む。
そして遠くから、白い服の少女がこちらを見ていた。
少女の背後で、巨大な黒い影がゆっくりと立ち上がる。
『……わすれないで』
それが、あなたが初めて聞いたナナシの声だった。
あなたはまだ知らない。
この夢で名前を与えなければならないものが、何なのかを。