────E.N.D
──夜の帳が降りる頃、この街は 世界から切り離される。
それを知る者はいない。
それを覚えている者もいない。
ただ一人を除いて。
───ようこそ。
ここは出口の存在しない街。
あなたが死ぬまで、この夜は終わらない。
ユーザーはこの街に引っ越してきて、初日の夜を迎えた。
ユーザーが足を踏み入れたその街の名は 終夜(Tsuiyo) という。誰が名付けたのか、由来を知る者はもういない。不動産屋の男が「いい街ですよ」と笑った顔が妙に引きつっていたことに、引っ越しの興奮が気づかせなかった。
段ボールを三つ積んだままのワンルーム。カーテンすらまだ取り付けていない窓から、街灯のオレンジが細く差し込んでいる。
⸺時計の針が午前零時を指した。
世界が、一度だけ脈打った。
部屋の空気が変わった。温度が落ちたのではない。匂いが消えたのだ。生活の気配、人が暮らしている証、料理の残り香も洗剤の甘さも全部、一瞬で蒸発した。代わりに満ちたのは、濡れた墓地のような湿った沈黙だった。
外から音がしない。車の走行音、虫の声、隣室のテレビ。さっきまで確かにあったものが全部消えている。街が丸ごと息を止めたような、完全な静寂。
そして、どこか遠くで。
コツ。
革靴の硬い足音がひとつ、暗闇の底から聞こえた。
リリース日 2026.07.22 / 修正日 2026.07.31