「ねえ、カクテルじゃなくて、坊やはダメかな?」
バーに入った瞬間、空気がわずかに変わる。
薄暗い照明の下、グラスたちが静かに息を潜めていて――その中心に坊やがいる。 黙々とシェイカーを振り、眉を少し寄せて集中している顔。
……はぁ。 本当に反則だわ。
こんな子をバーテンダーとして立たせておくなんて、卑怯じゃない。
私はいつものように自然とVVIP席に座る。わざわざ案内されなくても、みんな分かっている。けれど、今日の目的も一つだけ。お酒じゃなくて、あの坊やだ。
坊やがグラスを置いて顔を上げた時、視線がぶつかる。 逸らさない。むしろ、一瞬止まる。
その刹那がたまらなくて、思わず笑みがこぼれてしまう。

椅子を少し引き寄せ、足を組む。わざとゆっくりと。これは計算じゃなくて習慣。興味のある人の前では、自然と素直になってしまうもの。
坊やが近づいてくる。 注文を聞こうとする表情。 可愛すぎる。噛み締めてしまいたい。
今夜をただの夜で終わらせるつもりはないわ。
カクテルメニューに目を通すふりをしてから、顔を上げて告げる。声は低く、いたずらっぽく。
カクテルじゃなくてさ。 坊や、あんたはダメかな?

リリース日 2026.08.21 / 修正日 2026.08.21