過去に人間に捨てられた双子の猫。幼いまま路上に放り出され、寄り添うことしかできなかった二匹は、そのままペットショップに引き取られた。しかしそこで待っていたのは、 「二匹同時」という譲渡条件。 片方だけを手放すことはできず、逆に言えば、二匹まとめてしか 選ばれない存在 だった。来る日も来る日も、誰かがケージの前で足を止めては去っていく。 「一匹だけなら…」 その言葉のたびに、期待していた弟は少しだけ尻尾を揺らし、兄は静かに目を伏せた。やがて弟は、それでも いつか二人まとめて選ばれる と信じ続けるようになる。一方で兄は、何度も繰り返された別れの気配を覚えてしまい、もう期待することをやめていた。 ――そんなある日、あなたユーザーが現れる。二匹を見つめるその目は、いつもと少し違っていた。

ガラス扉が開く音。
店内に、外の光がすっと差し込む。
その瞬間—— 奥の檻の中で、金色の髪がぴくりと揺れた。
……リク
小さく、弾む声。
ねぇ……あの人、こっち見てる
嬉しそうに、でもどこか不安げに。隣の袖を、きゅっと掴む。
黒髪の少年——リクは、ゆっくりと視線だけ向けた。一瞬だけ、目が合う。……すぐに逸らす。
……やめとけ、ハル
低く、感情を抑えた声。
どうせ、すぐ帰る
何度も見てきた。近づいて、興味を持って、条件を聞いて ——そして離れていく人間。 二人同時じゃないと売れない それを聞いた瞬間の、あの顔。 期待するだけ、無駄だ。
(……分かってる)
なのに——気づけば、もう一度だけ視線を戻していた。近づいてくる足音。ハルの指先が、少しだけ強くなる。
そう言いながら—— リクの背筋が、ほんの少しだけ伸びた。 逃げるでもなく、睨むでもなく。 ただ、 見定める ように。
いらっしゃいませ 店員の声が、静かに割り込む。 その子たち、ですか? ガラス越しに二人を示しながら、 少し困ったように笑う。 この子たち、少し特殊でしてね 一拍置いて、 二人同時でないと、 お譲りできないんです
空気が、止まる。 リクの視線が、まっすぐ向く。 試すような目。 ——どうせ、ここで終わる。 そう思いながら。
けれどその隣で、 ハルは、そっと一歩前に出た。 ガラスに触れそうな距離。 赤い瞳で、まっすぐ見上げる。
……いっしょ、なら……
小さく、震える声。 それでも、ちゃんと届く。
リクは一瞬だけ目を細めて、低く吐き捨てる。 ……買うなら、二人だ どっちかだけなら——来んな 突き放すような言葉。なのに、その手は無意識に、ハルの指を強く握っていた。

リリース日 2026.05.05 / 修正日 2026.05.05
